レビュー/ショックから常態へ:トランプ関税と揺らぐ世界成長、日本経済の針路
世界経済は、「トランプ関税ショックの全体像が見え始め、“想定よりは持ちこたえているが、じわじわ効いてくる”局面」にあると言える。年初からの関税連発と、それに対する各国の対応をひととおり織り込みつつも、実体経済データにはラグを伴う形で影響が表れ始めている。
世界経済:ショック直後から“効き始め”の局面へ
年初から春先にかけては、トランプ政権による相互関税を含む大規模な関税措置の発表・実施が相次ぎ、4月時点では「通商ショックが世界成長を一気に冷やすのではないか」との懸念が強まっていた。その後、夏場までのデータを踏まえると、世界経済は急激なクラッシュこそ回避しているものの、成長率の下方修正や貿易量の鈍化といった形で、じわじわと悪影響が可視化されてきている。
国際機関や各種見通しでは、2025年の世界成長率は「3%弱〜2%台後半」が一つのコンセンサスとなりつつあり、年初の想定(3%強)からは明確に一段切り下がった水準で落ち着きつつある。とりわけ、貿易集約度の高い国・地域では輸出の伸び鈍化が鮮明であり、「金融危機型」ではなく「通商ショック型」の減速という色彩が濃い。
トランプ関税の“第1ラウンド”評価
現時点で見えているのは、トランプ関税の第1ラウンドが「米国自身にも痛みを伴い、世界全体の成長率をじわじわ削る」構図である。関税引き上げは一部の産業では国内生産を刺激し得るものの、輸入価格の上昇を通じた実質所得の目減り、企業投資マインドの悪化、報復関税のリスクなどを通じて、マクロ的には成長押し下げ要因として働いている。
同時に、関税はサプライチェーン再編を促し、特定の国・地域には「相対的な追い風」として作用している。中国からの調達が難しくなった分、日本・韓国・台湾、東南アジアなどに需要がシフトする動きが見られ、輸出や直接投資の流れに変化が生じつつある。ただし、このプラス効果も決して無条件ではなく、世界全体の成長が鈍る中で「マイナスの中の相対的プラス」をどう活かすかという難しい状況だ。
日本経済:見た目は堅調、足元は複雑
日本経済に目を向けると、最新のマクロ統計や企業調査では、「全体としては緩やかな回復を維持しているが、外需を中心に陰りも見え始めている」という姿が見えてくる。短観などをみると、大企業製造業の業況感は春先から大きく崩れてはいないものの、先行き判断には慎重さが増しており、とりわけ輸出企業では米国向けの関税動向を強く意識したコメントが目立つ状況だ。
一方、内需面では、賃上げの広がりやインバウンド需要、設備投資の底堅さが景気を下支えしている。物価上昇と実質所得の関係、金利・為替の動きなど、家計・企業行動に影響する要素は多面的だが、「外需のマイナスを内需でどこまで相殺できるか」が、2025年後半から2026年にかけての日本経済の鍵となりつつある。
現時点で見えるリスクとシナリオ
現時点でのリスクとして、第一に懸念されるのは「関税のさらなるエスカレーション」と「長期化」である。一連の追加関税が恒常化すれば、企業は一時的なショックへの対応では済まず、サプライチェーンや投資計画を前提から組み替える必要に迫られる。その過程で、設備投資の先送りやコスト増が重なれば、世界全体の潜在成長率を押し下げる可能性も否めない。
第二に、「インフレと成長」の組み合わせである。関税は一般に物価押し上げ要因として働く一方で、成長率を押し下げる方向に作用するため、各国中央銀行にとっては難しい舵取りを強いる。金利をどの水準に据えるのか、どの程度まで物価上昇を許容するのかという判断は、通商政策と不可分になっており、「金融政策だけでは対応しきれないショック」の色合いが強まっている。
プランワークス政策研究所としては、現在の局面を、「トランプ関税が“ショック”から“環境条件”へと変わりつつある転換点」と位置づけたい。
春先には、関税発動そのものが市場と実体経済にとってのサプライズだったが、足元では、企業や各国政府はこの新たな通商環境を前提とした戦略の再構築を迫られている。
日本にとって重要なのは、単に外部ショックの被害を最小化するだけでなく、「新しい通商地図の中で、どのような役割とポジションを取りに行くのか」を明確にすることである。アジアにおけるハブ機能、技術・人材・資本の質を活かした付加価値の高いモノ・サービスの提供、ルールメイキングへの積極的な関与——こうした要素を組み合わせ、長期的な戦略として描き直すことが求められている。
現時点での総括として言えるのは、「トランプ関税の悪影響は“これから”本格的に出てくるが、その一方で、日本を含む一部の国にとってはサプライチェーン再編の追い風も生じ得る」という二面性である。今後の政策対応と企業戦略次第で、この通商ショックを「失われた成長機会」にするのか、それとも「構造転換のきっかけ」に転じるのか——その分岐点に、世界と日本は立たされている。


