米国中間選挙後の政治はどう変わるのか ― 大統領と議会の権限関係から考える

2026年11月3日に実施された米国中間選挙は、トランプ政権の今後2年間の政策運営に大きな影響を及ぼす結果となった。

今回の選挙では、民主党が連邦議会の上下両院で多数派を獲得する見通しとなった。共和党が大統領と議会の双方を掌握してきた政治構造は転換し、2027年1月に発足する新議会では、共和党のトランプ大統領と民主党多数派の議会による「分割政府(Divided Government)」が成立することになる。[1]

中間選挙は一般に、現職大統領に対する有権者の評価が反映されやすい選挙とされる。今回も、生活費の高騰、関税政策、外交・安全保障政策などが主要な争点となり、共和党が強いとされてきた地域でも民主党が議席を獲得した。[1][2]

しかし、議会多数派の交代が、直ちに大統領の政策転換を意味するわけではない。

米国の政治制度では、大統領と連邦議会はそれぞれ独立した選挙によって選ばれ、異なる権限を持つ。議会が大統領の政策に反対しても、大統領が辞任する必要はなく、一方で大統領も議会の意思を無視して自由に法律を制定できるわけではない。

今回の中間選挙を考えるうえで重要なのは、選挙によって大統領の政治的立場がどの程度変化するかという問題だけではない。

議会多数派の交代によって、米国の三権分立制度が持つ権力の抑制と均衡の仕組みが、実際の政策運営にどのような影響を及ぼすのか。

本稿では、連邦議会と大統領の権限関係を整理し、2028年の大統領選挙までの政治運営について考察する。

1.議会多数派の交代によって何が変わるのか

米国連邦議会は、下院435議席と上院100議席で構成される。

下院議員の任期は2年で、全議席が2年ごとに改選される。一方、上院議員の任期は6年で、おおむね3分の1ずつが2年ごとに改選される。

今回の中間選挙では、民主党が上下両院で多数派を獲得する見通しとなった。これにより、2027年1月からの連邦議会では、民主党が法案審議や委員会運営の主導権を握ることになる。[1]

議会多数派の交代によって特に重要になるのは、立法、予算、人事承認、行政監視の四つの権限である。

第一に、立法権である。

大統領が新たな政策を実現するために法律の制定や改正を必要とする場合、議会の協力が不可欠となる。

民主党が上下両院で多数派を占めることにより、トランプ政権が新たな立法措置を実現するためには、民主党との政策調整が必要になる。

一方、民主党が主導して成立させた法案についても、大統領には拒否権がある。拒否権を覆すためには、原則として上下両院それぞれで3分の2の賛成が必要となる。

したがって、議会多数派の交代は、必ずしも民主党の政策がそのまま実現することを意味しない。

第二に、予算に関する権限である。

米国では、連邦政府の支出は原則として議会が制定する歳出法などに基づかなければならない。議会が必要な予算措置を認めなければ、政権が計画する政策であっても実施に制約が生じる。[3]

第三に、人事承認権である。

上院は、閣僚、連邦裁判官、大使など、大統領が指名する多くの政府高官について承認権を持つ。

上院多数派の交代は、政権の人事政策にも直接的な影響を及ぼす。

第四に、行政監視権限である。

連邦議会の各委員会は、公聴会の開催、政府高官への証言要求、資料提出要求などを通じて、行政機関の活動を調査・監視することができる。

特に下院では、委員会の運営方針が多数派の交代によって大きく変わる可能性がある。

こうした権限は、大統領の政策を直接変更するものではないが、政策形成や行政運営に対して継続的な影響を及ぼすことになる。

2.大統領令による政策運営とその限界

議会多数派が交代しても、大統領が持つ行政権限そのものが縮小するわけではない。

米国大統領は、憲法および法律に基づく行政権限の範囲内で、大統領令(Executive Order)を発出することができる。

大統領令は議会による事前承認を必要とせず、行政機関に対して政策の実施方法や優先順位を指示する手段として用いられる。

このため、議会で新たな法律を成立させることが難しくなった場合、大統領が既存の法律に基づく行政権限を積極的に活用する可能性がある。

ただし、大統領令には法的な限界がある。

大統領令によって新しい法律を制定することはできず、議会が認めていない支出を自由に行うこともできない。また、大統領令が憲法や連邦法に違反する場合には、連邦裁判所によって効力が否定されることがある。[4]

米国の大統領令は、議会による立法を代替する万能の制度ではなく、既存の法制度の範囲内で行政権限を行使するための手段である。

今後のトランプ政権においては、新たな法律の制定を必要とする政策と、既存の行政権限によって実施できる政策との区別が、これまで以上に重要になると考えられる。

また、議会が大統領令の根拠となる法律を改正し、行政権限を制約することも制度上は可能である。

しかし、その法律自体が大統領の拒否権の対象となるため、議会による行政権限の制約にも政治的な限界が存在する。

3.予算をめぐる対立と政府機関閉鎖の可能性

分割政府において、特に注目されるのが連邦予算をめぐる大統領と議会の対立である。

米国では、年度ごとの歳出法や暫定予算が成立しない場合、予算措置を必要とする一部の連邦政府機関が業務を停止する、いわゆる政府機関閉鎖(Government Shutdown)が発生することがある。

これは、歳出法による予算措置がない場合、原則として行政機関による新たな支出義務の負担を制限する法律(Antideficiency Act)に基づくものである。[3]

政府機関閉鎖は、米国政治において過去にも繰り返されてきた。

例えば、2018年12月から2019年1月にかけては、国境の壁の建設費用などをめぐる対立によって、連邦政府の一部が35日間にわたり閉鎖された。

また、2025年にも予算をめぐる対立から長期の政府機関閉鎖が発生している。

政府機関閉鎖によって、すべての行政サービスが停止するわけではない。法律上の例外が認められる業務や、別途財源が確保されている事業などは継続される。

しかし、行政機関の一部業務の停止、職員の一時帰休、政府サービスの遅延などが生じ、国民生活や経済活動に影響を及ぼす場合がある。

分割政府の下では、政策上の対立が予算交渉に持ち込まれ、政府機関の運営そのものが政治的な交渉材料となる可能性がある。

ただし、政府機関閉鎖は分割政府で必ず発生するものではない。大統領と議会が異なる政党に属していても、予算について合意が形成されれば、政府機関の運営は継続される。

今後の注目点は、議会と大統領が政策上の対立を抱えながらも、政府運営に必要な予算について合意を形成できるかどうかである。

また、政府機関閉鎖が発生した場合、その政治的責任が大統領と議会のどちらに帰属すると有権者が判断するのかも、2028年の大統領選挙に向けた重要な要素となる。

4.連邦議会は大統領をどこまで抑制できるのか

米国の三権分立制度は、大統領、連邦議会、連邦裁判所がそれぞれ独立した権限を持ち、相互に抑制する仕組みを基本としている。

議会による大統領への抑制手段としては、立法、予算、人事承認、行政監視に加え、弾劾制度が存在する。

大統領の弾劾は、下院の過半数による訴追と、上院の出席議員の3分の2による有罪判決を必要とする。[5]

したがって、民主党が上下両院で多数派を獲得したとしても、それだけで大統領を罷免できるわけではない。

弾劾による罷免には、共和党議員を含む幅広い賛成が必要になる。

トランプ大統領は第1次政権において、2019年と2021年の2度にわたり下院で弾劾訴追されたが、いずれも上院で有罪判決には至らなかった。

この事例は、下院による弾劾訴追と、上院による大統領の罷免が、制度上異なる政治的条件を必要とすることを示している。

一方、連邦議会は弾劾に至らない場合でも、行政機関の活動に対する調査や監視を継続することができる。

政府高官の証言、行政文書の提出、政策決定過程の検証などを通じて、行政権限の行使に対する説明責任を求めることが可能である。

今後の議会運営では、こうした日常的な行政監視機能がどの程度実効的に働くのかが重要になる。

5.連邦最高裁判所と司法による統制

大統領と議会の対立が深まった場合、連邦裁判所による司法判断の重要性が高まる可能性がある。

米国では、行政措置が憲法や連邦法に適合しているかどうかについて、具体的な訴訟を通じて司法審査が行われる。

大統領令や行政機関の措置が法的権限を逸脱していると判断された場合、裁判所がその効力を否定したり、実施を差し止めたりすることがある。

ただし、司法府は政策の政治的な妥当性を判断する機関ではない。

司法審査の対象となるのは、原則として憲法や法律との適合性であり、政策が望ましいかどうかという政治的評価とは区別される。

また、2024年7月の連邦最高裁判決「Trump v. United States」では、大統領の公的行為に関する刑事訴追上の免責について重要な判断が示された。[6]

この判決は、大統領の権限と司法による統制の関係を考えるうえで重要な先例となっている。ただし、刑事責任に関する免責と、大統領令などの行政措置の適法性は別の問題であり、両者を同一視することはできない。

今後、大統領と議会の対立が行政権限の範囲をめぐる法的紛争に発展した場合、連邦裁判所の判断が政策の実施に直接的な影響を与える可能性がある。

6.2028年に向けた政治運営の三つのシナリオ

今回の中間選挙によって、2028年の大統領選挙までの約2年間、米国政治は新たな局面を迎える。

今後の政策運営については、大きく三つのシナリオが考えられる。

第一は、政策ごとの部分的な合意形成が進むシナリオである。

大統領と議会が異なる政党に属していても、すべての政策で対立するとは限らない。

予算、インフラ整備、産業政策、安全保障など、個別の政策分野で共通の利益が存在する場合には、超党派による合意が形成される可能性がある。

今回の選挙後、トランプ大統領も民主党との協力に言及している。[2]

第二は、政策対立によって立法や予算の停滞が続くシナリオである。

大統領と議会が主要政策について合意できない場合、新たな法律の制定が難しくなり、予算交渉も長期化する可能性がある。

この場合、大統領は既存の行政権限による政策実施を重視し、議会は予算や行政監視を通じて対抗する構図が強まることが考えられる。

第三は、行政権限をめぐる法的紛争が増加するシナリオである。

議会による立法が難しい状況で、大統領が行政権限を積極的に活用した場合、その法的根拠や権限の範囲をめぐって訴訟が増加する可能性がある。

その結果、政策の実施時期や内容が司法判断に左右される場面も考えられる。

これらのシナリオは相互に排他的なものではない。

ある政策分野では超党派の合意が成立する一方、別の政策分野では議会との対立や司法判断が続くという状況も十分に考えられる。

したがって、今後の米国政治を分析する際には、政権全体を一律に評価するのではなく、政策分野ごとに立法、行政、司法の関係を検証することが重要となる。

7.今後の政策動向を把握するための視点

今回の中間選挙結果を踏まえ、今後の米国政治を継続的に把握するためには、次の点に注目する必要がある。

① 連邦議会における法案審議の動向

主要政策に関する法案がどの程度提出され、委員会審議や本会議採決を経て成立するのか。また、大統領による拒否権がどの程度行使されるのか。

② 連邦予算の成立状況

歳出法や暫定予算の審議がどの程度円滑に進むのか。予算をめぐる対立が政府機関の運営に影響するかどうか。

③ 大統領令と行政措置の動向

大統領令の発出件数だけでなく、その対象となる政策分野、法的根拠、実際の執行状況を確認する必要がある。

④ 議会による行政監視の実施状況

議会委員会による公聴会、証言要求、資料提出要求などが、行政運営にどのような影響を与えるのか。

⑤ 司法判断による政策への影響

大統領令や行政措置に対する訴訟が、政策の実施や変更にどのような影響を与えるのか。

これらの情報は、連邦議会の公式記録、連邦官報、連邦裁判所の判決、政府機関の公表資料などを通じて継続的に把握することができる。

特に重要なのは、大統領による政策方針の表明と、実際に法的効力を持つ措置や予算執行とを区別して分析することである。

政治的な発言が直ちに政策の実施を意味するわけではなく、法律、予算、行政手続、司法判断など、複数の制度的な過程を経て政策が具体化する場合がある。

おわりに

2026年の米国中間選挙は、議会多数派の交代という政治的変化であると同時に、米国の統治制度が持つ相互抑制機能の実効性を改めて問う機会となった。

今後の米国政治を理解するうえで重要なのは、大統領と議会の対立を単なる政党間の争いとして捉えるのではなく、それぞれの権限がどのように行使され、調整されるのかを検証することである。

大統領は行政権限を持ち、議会は立法、予算、人事承認、行政監視を通じてその活動に影響を与える。そして司法府は、具体的な法的紛争を通じて行政権限の適法性を審査する。

これらの制度は、それぞれが独立して機能するだけでなく、相互の関係によって政策形成の過程を規定している。

三権分立の実効性は、制度上の権限配分だけでなく、それぞれの機関が権限をどのように行使し、対立の中でどのような調整を実現するかによって評価される。

2027年1月に発足する新たな連邦議会とトランプ政権の関係は、米国の三権分立制度が実際の政策運営においてどのように機能するのかを検証する重要な事例となるだろう。


参考資料・出典

[1]2026年米国中間選挙の結果

Reuters, Democrats seize Congress in sweeping midterm repudiation of Trump, November 4, 2026.

https://www.investing.com/news/politics-news/democrats-seize-congress-in-sweeping-midterm-repudiation-of-trump-4997528

[2]中間選挙の主要争点と政治的影響

Reuters, Top takeaways from the US midterm elections, November 4, 2026.

https://www.reuters.com/business/media-telecom/takeaways-us-midterm-elections-2026-11-04/

[3]連邦予算・歳出法・政府機関閉鎖に関する法制度

U.S. Government Accountability Office (GAO), Principles of Federal Appropriations Law.

https://www.gao.gov/legal/appropriations-law

[4]大統領令・行政命令の公式記録

Federal Register, Executive Orders.

https://www.federalregister.gov/presidential-documents/executive-orders

[5]合衆国憲法・大統領と議会の権限関係・弾劾制度

Congressional Research Service / Library of Congress, Constitution Annotated.

https://constitution.congress.gov/

[6]大統領の公的行為に関する刑事免責

Supreme Court of the United States, Trump v. United States, 603 U.S. 593 (2024).

https://www.supremecourt.gov/opinions/23pdf/23-939_e2pg.pdf

[7]連邦議会における法案・審議状況

U.S. Congress, Congress.gov.

https://www.congress.gov/

[8]米国連邦議会の予算関連資料

Congressional Budget Office (CBO).

https://www.cbo.gov/


本稿は2026年11月4日までに公表された選挙報道および米国政府・連邦議会・司法府の公開資料に基づくものです。
選挙結果に関する記述は同日時点の報道に基づいており、最終的な議席数の確定を意味するものではありません。
今後の政治動向に関する記述は、制度上の権限関係を踏まえた分析であり、特定の政策展開を予測・断定するものでありません。